「ボディメカニクス」在宅介護の知識と技術

ボディメカニクスとは?

看護/介護または運輸業などの業界で使われる【ボディメカニクス】という用語とその意味や意義について解説します。

要介護者の移動・移乗に役立つ介護技術

ボディメカニクスとは「最小限の力で介護ができる介護技術」のひとつで、人間の関節や筋肉、骨が動作する際の力学的関係を利用したものです。介護者の中には腰痛に悩まされる人が多く、ボディメカニクスを取り入れ実践することで腰への負担軽減に繋がります。介護者の負担を軽減できる介護技術として注目されています。

腰痛予防に効果的

ボディメカニクスは特に腰痛予防に効果的です。力任せではない身体介助を行うことで、介護する側と介護される側の身体的負担を軽減します。看護・介護は腰への負担が大きいので、ボディメカニクスという知識を知っておくことは、長く安定して介護に当たる上でとても重要になります。

ボディメカニクスの原理と7原則

ボディメカニクスには8原則が定められています。いずれも「てこの原理」や「重力の関係」を利用することが重視されており人間の身体の本来の機能を使った技術です。これにより小さい力で介護が可能になるので活用してみましょう。

両足を開き支持基底面積は広く、重心を低くとる

支持基底面積とは体重を支えるための床面積のことで、上のイラストのように足を開くことで支持基底面積を広く取ることができます。これにより介護者の身体が安定、腰への負担を軽減できます。また、前後左右に足を開くことで安定感が増すので実践してみましょう。足を開き、膝を曲げ、腰を落とす姿勢が安全で安定した介助の姿勢です。

被介護者との重心を近づける

介護する際、上のイラストのように要介護者と身体を密着することで、重心を近づけて安定感を確保することができます。重心を近づけることで力が伝わりやすくなるうえ、安定感も増すので腰痛防止に繋がります。最小限の力で介護することを意識すると身体的負担が軽減がします。

力の分散を防ぎ、摩擦を小さくする

力が分散すると重くなります。要介護者の手足など、身体をできる限り小さくまとめると力の分散を防ぎ、摩擦も減るので介護者も要介護者も安全かつ安楽に介助できます。

身体全体を利用し、大きい筋群を使う

介護は腕力に頼りがちですが、一部の体の部位や小さな筋肉を使うと負担が大きくなってしまいます。そこで、腰・脚・背中などの全身の大きな筋肉を一緒に使うことを意識することで、身体の一部分への負担を軽減できます。身体全体を使うことを意識し、特に大きな筋肉である背中や太ももを使うことで身体的負担の軽減に繋がります。

水平移動を行う

介護は要介護者の身体を頻繁に持ちあげるイメージがありますが、持ち上げようとすると腰へ大きな負担がかかってしまいます。しかし、水平移動には重力の影響がないため、上下に持ち上げて移動するよりも小さな力で移動させることが可能です。上のイラストのように、できるだけ「持ち上げる」動作を省略することで身体的負担を軽減します。

手前に引く動作を意識

押す力より引く力の方が小さい力で済見ます。上のイラストのように手前に引く動作を意識します。押す動作は腰への負担が重くなってしまうので、ぎっくり腰や慢性的な腰痛を引き起こしがちです。

てこの原理を上手く用いる

理科の授業で習ったように、支点・力点・作用点を意識して、てこの原理を活用することで、小さな力でも大きなものが動かせるようになります。例えば、要介護者の膝や肘を支点にして遠心力を利用することで、小さな力で起こすことが可能になります。持ち上げるのではなく、支点を作り、自分の体重をかけることで楽な介助に繋がります。

ボディメカニクスを行う上での注意点

要介護者に声をかけながら行う

介助作業を行う際には、要介護者に声掛けを行うことが重要です。これから行うことを要介護者に知ってもらうことで、不安が解消されるだけでなくスムーズに介助に着手できます。また要介護者に声掛けを行うことによって、意思や意見を尊重し、自立心を促すこともできます。また、コミュニケーションを通じて絆を深め、より良い介護を提供することができます。

要介護者ができることはしてもらう

必要な介助をすることは大切な作業ですが、要介護者が自力でできることがあれば自分でやってもらいます。本来は自力でできることまで手伝ってしまうと、身体機能が低下し、できることが少なくなってしまいます。介護者は適切な支援や指導を行いながら、要介護者が自分でしたいことをしたり、自身で体調管理することを促すのも役割の一つです。バランスの取れた介助を心掛けることで、要介護者の自尊心と生活の質を向上させることができます。少しでも身体機能を維持できれば介護者の負担の軽減になります。

ボディメカニクスが役立つ場面と具体例

ベッドから起き上がるとき

ベッドから要介護者を起こす作業は腰に大きな負担がかかります。まずは介助しやすいようにベッドの高さを調節し、持ち上げるために腕を胸の上で合わせるなど、身体を小さくまとめてもらうと良いでしょう。その後、腕を首とひざの下に入れて要介護者を引くようにしながら、おしりを支点にしててこの原理を活かして起こすと、腰への負担を大きく軽減できます。

身体の向きを変えるとき

仰向けになっている要介護者の体勢を変えたり身体の向きを変える際にもボディメカニクスは有効です有効です。ベッドから起こすときと同じように、身体を小さくまとめてもらってから「てこの原理」を使うことで簡単に体位変換ができます。身体の向きを変える介助は介護の場面で非常に多いものです。

立ち上がるとき

要介護者に座った姿勢から立ち上がる際に、介護者はしっかりと支えてあげる必要があります。そこで、腰への負担を軽減するために重心移動を意識します。要介護者の腕を介助者の肩に回してもらい、腰を落として重心を下げてから一緒に立ち上がることで、身体の筋肉全体を使った介助ができます。また、立ち上がった際に要介護者の重心線が支持基底面に収まっていると姿勢が安定しやすくなります。

座るとき

立ち上がる動作とは逆の、座る場面でもボディメカニクスは活かせます。要介護者に座ってもらう際には、支持基底面を広く取った上で要介護者と一緒に腰を落としながら座らせてあげます。ゆっくりと行うことで、介護者と要介護者がより安定して体勢を変えることができます。

車いすからベッドなどへの移乗のとき

車いすからベッドへ移乗する際には、まずベッドを車いすよりやや高い程度に調整します。続いて、自分の足を前後に開き、前の足を相手の両足の間に入れてから要介護者の腕を肩に回してもらい、身体を近付けます。次に、足先を車いすに向けながら方向転換し、一緒に腰を落としながらゆっくりと座ってもらうと安全に移乗できます。このような移乗も介護の場面では頻繁にあります。

ボディメカニクスを習得するメリット

要介護者への負担の軽減

ボディメカニクスについて理解し、実践することで要介護者も無理な姿勢になることなく介護を受けることができます。無理に身体を動かされることが無くなるので、自然と身体を痛めることも少なくなります。つまり、介護者・要介護者双方の身体的負担を軽減できるメリットがある訳です。

介護者の身体的負担の軽減

ボディメカニクスを用いて介助を行うことで、腰をはじめとした身体的負担を軽減できます。一部の筋肉だけでなく、人間本来の力を用いながら身体全体を使うため、身体の一部分を痛めることが少なくなるはずです。この先、長く続く事になるかもしれない介護のある生活の心的不安要素を軽減する技術でもある訳です。

双方の心理的負担も小さくなる

ボディメカニクスを用いて適切な体勢での介護を行うことで、要介護者側も安心して介護を受けることができます。また、介護が楽になるので、ストレスが緩和され気持ちも楽になるメリットが期待できます。心身のストレスが軽減されることで、余裕が生まれ、より良い介護のの提供が可能となります。